それら全ては

「すきすきすきすき」
「好きな人がいるっていうのはいいことだね」
僕は、諦めにも似た感情で彼女に語りかけた。もう、彼女は孤独を愛せないのだろう。
「すきすきす、……」
そしてまた、空っぽになる。
彼女には、彼への執着しかない。だから中身を欲しがる。勉強をして彼から離れようとし、彼から離れられるとそれは許せないのだ。今回は、別として。
「もう戻らないの?」
「もう戻りたくないと望んだのは君の無意識だ」
「…」
あの時君が彼にさみしさゆえに謝っていたら。何か変わったかもしれない。でも、それも、長くは続かないものだ。
「いつかは別れると思っていた。彼に代わりがいると知ってた。彼は私を選ばない」
違う。
君は彼の異常な恋愛観にずっと不信感を抱いていた。だが、彼は変える気はなかった。むしろ、君のためと言った。
君は反発しようとした。
だが彼の愛情表現だとも分かっていた。
君は動けなくなった。
彼は変わらなかった。
関係性が変わった。
彼は
「もう、いい。」
………
「もう、いいわ。もういい。やめましょう。やめて、くれると嬉しいわ。」
…僕は、謝ろうとした
「うわ」

「またレジェンド。これって、こういうものなのかしらね。いまそういうイベントなのかも。もう1回行こうかな」

「…………」
「ぼろぼろ落ちるんじゃない?」
「あと一日、レジェンドがぼろぼろ落ちるってこと?なにそれやるしかな」
「そんなに為になるの?」
「いや、全然。英語物語したいもん」
「じゃあ、英語物語したら?」
「思い出すからいやです」
「………」
「めんどくせえって思ったでしょ酷いな」
「じゃあなにするのかなーって。」
「倫理聞きながらバイト行くんじゃない」
「……」
花があれば、蝶が来る。
彼女は、
「美しくなるわ」
誰かの庭を見ながら、彼女が呟いた。
「自分に自信を、持ちたいの。ちゃんと、したい。」
彼女はずっとそれを願っている。
このごろ、ずっと。
「行きの交通費」
240円、…?
「パンとお菓子を買うわね。」

「2つで190円」
「まゆ、なんで」
「なんで?お腹すいたからよ当たり前でしょ」

「もぐもぐもぐ」
「……」
「あんこだ…」
昨日は
「必要なのよ朝ごはんは。あなたもそう思うでしょ」
グラノーラがあったはずだ
「明日はそれを食べてお腹を膨らませようかな」
ぱくっ、もぐ
「おいし…」
綺麗になると言った
「言ったよ?なによ、食べるなっていうの?」
そうでは、ない。
「倫理だってちゃーんと聞いてるじゃない。なにが不満なのよゆーやくん」
ぱくっ
「まゆ、こっちを向ける…」
「メイクするわね待ってて」
彼女はまた何かを繰り返そうとしている。
違う、そうではない。
変えなければならない。
根本的に、変わらなければならないのだ。
彼女は変わりたいと望んだ。
今が幸福ではないと分析したのだ
話し合いたい
「私のことを考えてくれてありがとう。嬉しいわよすごく。それが、私の変わる原動力となるわ」
バイト先に着いた彼女は、現役大学生と呼ばれた。
残念ながら、彼女はそれを不快と感じられなかった。彼女は喜んだ。大学生である自分を喜び、それから自分に失望した。
変わる、と。
変われるならば、ではない、
変わるのだ。
振り向かず。
彼女は決心した。
覚悟を決め、すべてを断ち切った、
失うものなどもう、何も無いのだ。
「頑張ってくる。」
戻ってきた彼女は僕に寄りかかって、ため息をついた。
「私ね」
そして、少しずつ、息を吐くように。
ぽつりぽつりと、話し始めた。
「私、彼と離れたかったの」
「うん」
彼女の手が、空を掴んだ。
「苦しくて。彼のことを思うと、私との時間は無駄に思えた。彼は可能性を沢山持ってて。たくさんの人を、幸せにできる人で。私は、それを邪魔してしまっていると感じたわ」
「……」
「彼が私に依存していて、私もそんな彼に依存していると分かっていた。だから、何度も離れようとした。でも、彼が私を好きだと、離れられなかった。なら、彼から嫌われたらいいの。そう思って、私は彼に甘えた。そして、距離を。…計画通りなのねきっと。そう、思いたくて。好きな私を辞めたいの」
彼女の頭を撫でたかったが、やめた。
そうではない、と思ったからだ。
彼女はお昼ご飯を持っていなかった。
僕は、彼女にそぼろ丼を作りたくなった。
だが、僕には体がない。
彼女は先程買ったパンとお菓子、それからからのペットボトルを取り出した。
「ね、私、データ入力めちゃくちゃ向いてると思うわ」
弾んだ声。
何か彼女にとって、いいことがあったのだろう。
データ入力か。
名古屋に、仕事があったな、と思う。
「夕夜ってさ」